『 笛 山口圭介 』
数週間前に公園のベンチで話した人物が、遠く離れた場所で頑張っている。
嬉しそうに笑い仲間達と手を叩きあっている姿がテレビを通して眺めていた。
映し出される見た事のない笑顔に、
「あんな風にも笑うんだ・・・」
真っ暗な部屋に解説者にの声と混ざり消えていった。
目に入るジャパンブルー
選手も監督もスタッフも嬉しそうに笑い握手をかわしている。
そして、声援に答えるかの様に観客に手を降りながら歩く姿が映された。
そんな映像を、どこか上の空で見ていると興奮したアナウンサーの声と
質問に答える知っている声に意識が戻された。
嬉しいのだろう、微笑みながら質問に答える姿に、
自分も嬉しくなりガラにもなく頬が熱くなるのが解り、自分しか居ないと
解っているのに周りを見渡してしまった。
更に自分のした行動に恥ずかしくなり、首を振りテレビに注目すれば、
終わりを告げる挨拶が交わされており、少し落ち込む。
次の選手を紹介する声にため息を落とし、携帯へ手を伸ばす。
ボタンを押しメール画面に切り替えれば、先程テレビに映っていた人物の
名前が表示される。
『勝ってくるよ』
一言書かれた文章に
『無理しないようにね』
愛想の無い返事を返した。
それなのに、
『ありがとな』
礼を返してくれた。
もちろん、返信をしようと考えるも、先程自分が打った言葉だって必死に考えて、
なんども打ち直して、 時間に押され納得出来ないまま返信をしたのに、
礼を言われた次の返事なんて、思い付く事も無く、自分の情けなさに落ち込んだ。
今だって祝いの言葉を送りたい。
おめでとう。
その一言を言いたい。
でも、これからの彼の行動を想像すると、
メールをする事を躊躇った。
テレビとかに出ないとダメだろうし、
雑誌の取材とかもあるだろう。
それに皆からのお祝いメールに返事だってしたいだろう。
そんな忙しい時に迷惑をかけちゃダメだよね。
握っていた携帯を床に起き、ため息を落とす。
会ったら、おめでとうと言おう。
だから、早く会いたい。
会って笑って欲しい。
たくさんの事を教えてくれる
アナタの声が聞きたい。
遠い場所じゃなくて、
ブラウン管からじゃなくて、
1つのベンチで少しだけ隙間を空けて座る。
その距離でアナタに会いたい。
目を閉じ思う。
アナタに会いたいです。
『笛 風祭 将 』
特別な今日
それなのに、熱を出してしまった。
朝起きたら体が重くて、
手足を動かす事すら辛かった。
でも、
気付かないフリ。
心配をかけちゃうから。
何も無い様に挨拶をして、無理して朝ごはんを食べて、学校へ向かう。
大丈夫。
誰にもバレてない。
体育だって普通にこなし、授業だって最後まで受けた。
大丈夫。
だいじょうぶ。
後は家に帰れば良いだけ。
友達の遊びの誘いを断り、
重みがました体を叱咤し歩く。
今日は七夕だから、短冊を書かなければ。
去年みたいに大きな事はしない。
笹だって無い。
友達や先輩だって居ない。
一人の七夕
痛みを訴える頭を振り、
止めてしまいそうになる足を無理矢理動かす。
もうすぐ
もうすぐ家に着く。
家に着いたら、
少しだけ寝よう。
寝たら楽になるから、
それから電話をしよう。
何を話そう。
アノコト以外の話題を探さなくっちゃ。
朦朧とする意識をごまかす様に考えに没頭し、
家の中へと入れば、体の重みと痛みが増した気がして、
目尻に涙が浮かんでくる。
アイタイ・・・
違う。
熱で体が重いだけ・・・
アイタイ
違う。
頭が痛くて涙が浮かんだだけ。
イマスグアイタイ
違う。
アイニイキタイ
我が儘言っちゃ駄目。
会ってなにになるの?
今行っても気を使わせて、苦しませるだけでしょ
デモ、アイタイ
なみだがぽろぽろこぼれる。
アッテフレテハナシヲシタイ
哀れむだけなら
同情をするだけなら
会っちゃ駄目。
デモアイタイ
我が儘いってどうするの?
お父さんやお母さんを困らせるだけじゃない。
デモ・・・
信じよう。
あの人は・・・・大丈夫だと。
アイタイ
うん。
短冊に書こう。
書いて願って川に流そう。
ウン
いしきがやみにのまれる。
足が治します様に。
アナタニアイタイデス。
『庭球 不二 周助 』
これは夢だろうか?
それとも幻?
会いたいと願い、文字に表した。
けれども、そんな早く叶うモノなのだろうか?
嗚呼。
私はまた居眠りをしてしまったのだろうか?
梅雨の時期ではあるが、
空には薄い雲がはり、そよ風が時折吹き、過ごしやく、
居眠りをするには絶好の日和だ。
波の様にやってくる眠りと戦い、苦戦をしたが、なんとか全勝して授業を終えた。
いつもの様に、木の下で小説を読んでいた。
今日は、恋愛小説ではなくエコの話だった。
なのに何故、先輩が居るのだろう?
やはり、現実では無くて、 夢なのか?
夢や幻を見る程、願いは強かったのだろうか?
自分が気付かないだけで、願いは願望になってしまったのか。
情けない事に気付かなかったコトに
気付いてしまい苦笑いをした。
なんと欲望に忠実なのか。
自分の愚かさ罪深さがイヤになるも、
だったら手を延ばし、触れてみよう。
なんて欲深さが出てくる。
私が望み夢や幻を産んだ姿。
だったら
触れても良い。
言葉を交わしても良いはずだ。
この欲にまみれた願いを叶えてくれ。
ゆっくりと頬へ向かって手を延ばした。
暖かな体温は
夢や幻だろうか?
それとも?
『 庭球 手塚 国光 』
会いたいと願った。
コートを走り回るアナタを見たい。
声が聞きたい。
目を合わせたい。
大きな手に触れたい。
アナタの膝の上に座りたい。
アナタの寝息を聞きたい。
アナタの体温と共に眠りたい。
誰よりも不器用な優しさに触れたい。
微笑んだアナタが見たい。
困った顔をさせたい。
我が儘を言いたい。
アナタに会いたい。
鳴けば届くだろうか?
鳴いて泣き続ければ天の川を渡りアナタの耳に届くだろうか?
それとも短冊を川に流せばアナタの手元に届くだろうか?
会いたい。
煌めく星よ。
天を流れる川よ。
まだ夜がこぬ場所に居るアナタに届けて欲しい。
会いたい
声が聞きたと
鳴いているのだと。
幸せはどこへ行ったんだろう・・・
08.07.05